第2話 イリア・パゾム

「シャア、あともう少しです!」

狭いコクピットの中で、やっと恋人に逢えた少女のように、はしゃぐイリアの
声が酸素のある部屋の中、空気を振動させてのびのびと響いた。先程迄などシ
ャアのケガが心配で堪らなかったらしく、半べそをかくほど慌てていたのが嘘
のようだ。

「でも、パンドラに帰っても、その後はどうするのですか? シャア、聞いて
いるのですか? ……シャア!!」

ジオンで彼を呼び捨てにできる婦女は、そうそういない。

「ああ、聞いているよ。……しかし振動が少し気になるな?」

シャアの返答は、MSの乗り心地についてである。

「そんな事、聞いていません!!」

イリアは少しプンプンと怒った顔をしてみせた。
細身だがナイスバディ、エキゾチックな感じの小麦色の肌に大きな瞳、ウルフ
カットの後ろ髪は左右両方に分けてロングにしている。見た感じミュージシャ
ン、なかでもハードロック・シンガーを思わせる。

――かわいいな。

シャアは、けっこう落ち着いている。ケガの痛みも鎮痛薬のおかげで随分と楽
になりかけている。だからこそ、こんなふうにイリアの事を見れるのだろう。

「イリア、そんなに怒ると美人が台無しだぞ。イリア……」

と、彼女の頬にやさしく触れた。戦闘空域より遠のいてからは、二人共ヘルメ
ットを脱いでいた。

「あぁっ……」

イリアは、顔を赤らめ、艶めかしい吐息を漏らした。
プレイボーイ万歳である。ニュータイプと同時に天然ホストの才能まで身につ
けたらしい。
これで婦女の機嫌を直してしまうのだから、赤い彗星は、『伊達じゃない!』
←アムロ調でお楽しみ下さい。
それから僅かな時間、イリアはシャアの抱擁に女の幸せを感じるのだった。
すっかり機嫌を直したイリアに、シャアが問い掛けた。

「どうだ、この機体は?」

「はい、私には良く馴染みます」

MS−14J『リゲルグ』、ハマーン・カーンの愛機AMX−004『キュベ
レイ』を思わす、両肩に大型のウイングバインダーを装備した、1年戦争末期
に活躍したMS−14『ゲルググ』の改造機である。もともと、シャアがアク
シズ基地内で自分の為に設計し作らせたハンドメイドMS、『モヨケイツーの
剣・奪回作戦』で活躍した機体であった。現在ではアクシズに数機、それのレ
プリカが存在し、イリアの乗るこれもまたその内の一機である。もちろん、オ
リジナルが、あの赤い彗星シャア・アズナブル専用機というだけあって、ポテ
ンシャルの高さは、すばらしいとされた。しかし、かなりの操縦技術があるパ
イロットにさえ乗りこなすことが困難らしく、彼等に敬遠されていたのも事実
である。

「イリアとは相性がいいみたいだな」

「はい。でもシャアが乗る方が似合います」

「いや、イリアが乗れている。それによく似合うぞ」

「本当ですか?! うれしい!」

喜ぶ姿は、後に起こるアクシズ戦役でみせる非情の女戦士には程遠い笑顔であ
る。
イリア・パゾム、彼女は、シャアがアクシズで育てたニュータイプ部隊の一人
で、シャアの一番のお気に入りであった。かつて、ララァ・スンという少女が
いた。それは先の大戦『一年戦争』のおり、民間人である彼女と共感しあい、
ニュータイプ戦士に仕立て上げた事があった。それと同じく、イリア・パゾム
もまた、シャアのスカウトによるニュータイプである。
どちらかというと、このイリア・パゾムも往年のガンダムワールドの敵ヒロイ
ンキャラと同等、かなりの天然娘である。
しかし、赤い彗星は天然好きである。
作者は、大瀧詠一(ミュージシャン)の名曲【君は天然色】を久しぶりに聴き
たくなったところで、しばし、コーヒーブレイクとしよう。
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